波動学習の最初は主に、「波とは何か」「波の表し方(正弦波)」から入ることが多いと思います。実際にこれまで採用してきた教科書もその順に記載されていました。 その後2つの波を衝突させ、衝突中は2つの波の変位を足し合わせた合成波が観測されること(重ね合わせの原理)と、衝突後は元の波形の波が再び現れること(波の独立性)について言及されます。 ここで私が疑問に思うのは(あるいは生徒がつまづくだろうなと思うことは)、「重ね合わせ」と「独立性」が矛盾しているように聞こえてしまうことです。重ね合わせとは「2つの波が同時に存在する領域で観測される波形は元の波形の変位を足し合わせたものだ」というだけで、波形の衝突によって元の波形が変形するかどうかは言及していないので、独立性と矛盾するわけではありませんが、「あるときは足し合わせて、あるときは元通りだ」というのに違和感を覚える生徒をよく見かけます。 そこで私は随分前から、波動学習の入り口は「重ね合わせ」の学習としました。それは、「なぜ波動の学習において、最も基本的な正弦波を学ぶのか」という問の答えでもあります。 身の回りの波動現象を挙げさせた後、例として自分の声をオシロスコープ等で可視化すると、複雑な波形を観測することができます。この複雑な波形の波の特徴をどう捉えるか(例えば音の高さと振動数の関係など)ということは、本当は難しいことです(振幅が周期的に変化するような波に対して波長や振動数をどう考えるかなど)。なので、あえて複雑な波形を見せて、「この複雑な波形が実は単純な正弦波の『重ね合わせ』で表現できるのだ」ということを実感させます。 このときに役立つのが、PhET(科学シミュレーションサイト)の「Fourier: Making Waves」です。 URL:https://phet.colorado.edu/ja/simulations/fourier-making-waves このシミュレーションを通して、波長の異なる様々な正弦波を重ね合わせると複雑な波形になっていくことを実感できます。 例として三角形の波や、矩形波、波束の作り方を示すことができたり、ゲームを通して与えられた波形を再現したりすることができます。 特に再現ゲームは生徒に好評で、レベル3(3つの波の合成)までは余裕でも、レベル4以上になると急に難しくなります。それでも1コマの授業の中で、レベル5まで到達する生徒もおり、中々盛り上がります。 こうして単純な正弦波の「重ね合わせ」によって複雑な波形を再現できることを理解すれば、なぜ正弦波の特徴を学ぶのかということも理解できます。 また、合成された波の振幅が周期的に変化し、それを別な音として観測する(うなり)ということも可視化することができます。 波動学習のイントロとしてうってつけだと思っていますので、ぜひお試しください。